4回目のHappy Birthday   ルフィ誕SS



「何か欲しいもんあるか?」

不意に問われ、一瞬言葉の意味が呑み込めず、ルフィは目を瞬かせた。
目の前には、妙に神妙な顔をしたゾロがいる。
間違いなくこの男の口から発せられた言葉なのだが、いきなり何の脈絡もなく告げられた言葉は、頭の中を素通りしていくだけだった。
何しろ今までにこの手の言葉をかけられた事がないので。

「なんで?」
「あ〜……お前、今日誕生日だろ?」
「へ?……あ、うん」
「何か欲しいもんあるか?」

今度は意味が呑み込めた―――けど、あまりの驚きにもう一度目を瞬かせた。
だって、ゾロがそんな事を言ってくれるとは思わなかったのだ。


ゾロは、ルフィが3年かけて手に入れた恋人だ。
ゾロに一目惚れしたルフィが、文字通り3年間「好きだ」と言い続け、やっとの事で思いを通わせた、という経緯がある。
微妙な進展をしつつもなかなか振り向いてくれないゾロに、一度は涙を呑んで諦めようとしたけれど、ゾロはその時初めてルフィに好きだと告げてくれた。
それが今から半年前のゾロの誕生日の出来事だ。

ゾロの誕生日が3回巡る間にルフィの誕生日も3回巡った。
その都度ゾロから何か言われたり貰ったりもしていないし、それどころか自分からアピールしておねだりしていたくらいなのに。

「誕生日……」
「なんだよ、忘れてたのか?」
「忘れてないけど、」
「あ?」
「そんな事言ってもらえるとは思わなかった……」
「そりゃ、お前……」

俺ら、付き合ってんだし。
ちらりと明後日の方向を見て、ゾロがポツリと呟く。
その、どこか照れたような困ったような顔は、最近ゾロが見せてくれるようになった表情だ。

「それを言うなら、去年だって付き合ってたじゃん」
「それは……悪かったよ」
「あ……いや、そうじゃなくて。今更改めて、ってのも変じゃねぇ?」
「でも、去年までとは違うだろ?……まぁ、いろいろと」
「そりゃ、そうだけど」

3年間、ほぼ100%無理やり付き合わせていたのはルフィの方だ。
その間、もちろんルフィは恋人になる事を前提に付き合っていたのだが、ゾロにとっては当然違ったらしい。
そりゃ、そうだろう。
大体、知りもしない男(そう、よりによって男だ)にいきなり付き合ってくれと言われたって、普通は困る―――だからゾロは間違っていない。
最終的にルフィを好きになってくれて、今では自分の意思で付き合ってくれているから良いようなものの、一方的な交際期間は、一歩間違えればゾロの時間を無駄に奪ってしまうだけだったのだ。
これに関しては、ルフィも今となっては反省している。
さすがにこれは、我が儘の域を超えているだろう。
だけどゾロは、一方的に我が儘を通したルフィに怒るでもなく、それどころか最近は過剰な気遣いをしているように見える。
もしかしたらルフィとは逆に、「待たせた」という事に負い目を感じているのかもしれない。
そんなもの不要だというのに。

「俺、別に欲しいもんなんてねぇよ?」
「あんだろ、何か」
「ねぇよ」

元々、物欲は薄い方だった上に、一番欲しかったものはもう既に手に入れてしまったのだ。
今更もう、ゾロ以外に欲しいものなんてない。

「今更遠慮すんなよ」
「してねぇってば」
「ったく、祝い甲斐がねぇなぁ……」
「んな事言ったって」

あんまりゾロがしつこく聞くから、一応いろいろ考えてみる。
欲しいもの……必要なもの……今必要なもの……?
先ずは、この春から一緒に暮らし始めた部屋を隅々まで眺めてみた。
一通りの物は、この部屋に引っ越ししてきた時に揃えたので、取り立てて足りない物はない。

あ、そういえば

「シャンプー切れてた!」
「生活雑貨かよ」
「入浴剤……とか。泡でモコモコになるヤツ」
「風呂場から離れろ」
「え〜〜……」

風呂場がダメって事は、どこだ……あ、台所?
あ、そういえば

「買い置きのアイスクリームがなくなったぞ?」
「食いもんかよ」
「あと、焼肉のタレ」
「台所からも離れろ……」
「え〜〜……」

本当に思いつかないのに、それではどうにも許してもらえないらしい。
やっとの事で絞りだした答えも、ことごとく却下されてしまうし……いや、しかし。
そもそもなんでこんなに悩まなければならないのだろう。
他でもない自分の誕生日なのに。
なんかものすごく理不尽だ。
そう考えると、ルフィの本来の我が儘気質とやらがむくむくと湧き上がる。
本当の意味で付き合うようになって、更に一緒に暮らすようになった今、ルフィはそれなりに自分を抑えていた。
それは、ゾロへ対して無理強いをしていた自分への反省だったのだが、折しも今日は誕生日、少々我が儘を言っても罰は当たらないだろう。
おとなしくしているのも、そろそろ限界だし。

「よし、ゾロ!買い物行こう!」
「欲しいもん決まったか?」
「今日は焼肉にしよう!」
「はぁ?」

元気に言い放ったルフィの言葉に、ゾロはあからさまに嫌な顔をした。
期待していた答えではなかった事に対する不満なのだろうけれど、ルフィは気にせず続ける。

「俺、カルビとハラミな!あと、焼肉のタレは辛口で、アイスクリーム買って、シャンプー買って、入浴剤買おう!」
「いや、お前……」
「だから!焼肉食った後、一緒に風呂入ろう!湯船ん中を泡でモコモコにするんだ!んで、最後は頭も洗ってくれ!」

ニカッと笑って、ルフィはそのままゾロの胸に飛び込んだ。
分厚い胸元にすりすりとおでこを擦り付けて、背中に回した腕に力を込める。
こんなに大切な人がここにいるのに、それ以上に欲しいものなんて何もないのに、そんなのどれだけ考えたって無駄だ。

「今日の俺、すげー我が儘でごめんな?……ずっと我慢してたけど…今日くらい良いよな?」

元来強気な性格なのに、最近、殊にゾロに関わる事には、つい弱気になってしまう。
これ以上ないほど大切にされて、こちらの出方を窺うように気を回されて、嬉しいけれど少し距離を感じて寂しいような気持ちを持て余してしまうのだ。

「つーか、やっぱり我慢してたのかよ……ったく、そんなもん必要ねぇだろ。大体、我が儘言わねぇお前なんて、お前じゃねぇし。なんか遠慮されてるみたいで、こっちも調子が狂う」

俺って、ゾロの中ではどれだけ我が儘だと認識されているんだろう。
そんな疑問が頭を過ったけれど、何やら聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がして、慌ててゾロへ向き直った。

「じゃあ、もしかして最近ゾロの様子が変だったのって、その所為か?」
「変、だったか?」
「うん。なんかすげー気ぃ遣われてるし……遠慮されてるみたいで嫌だったぞ」
「なんだよ、お互い様かよ」

ゾロは気が抜けたようにため息をつくと、懐に懐いているルフィを見下ろした。
同じように見上げたルフィと視線が絡み合い、小さく笑う。
そしてそのまま、まるで胸の中に閉じ込めるみたいに、ぎゅっとルフィを抱きしめた。
触れている箇所が温かくて、ドキドキと早い鼓動は、重なり合って溶け合って、やがてどちらのものか分からなくなる。

「俺な、ゾロ……」
「ん?」
「ゾロがいれば、他に欲しいもんなんかねぇんだ」

―――あのな?
俺、1番最初にゾロを見た時、なんか知んねーけど「好きだなー」って思ったんだ。
ゾロはなかなか俺ん事好きになってくんなかったけど、どうにかして俺のもんになんねーかな、って、ずっと思ってたんだぞ。
今思えば、すげー我が儘なんだけど……でも、俺は、

「ゾロん事、すげー好き」
「ルフィ……」
「手に入らねぇから、欲しくなるんだ、きっと……でも、ゾロはもう俺のもんだから。だからもう、他には何も要らね」
「そうか」
「ししし」

顔を見合せれば、いつものように我の強いルフィの目にぶつかって、ゾロはいつものように不敵な笑みを浮かべた。


「よし、買い物行くぞ」
「俺、ケーキ食いたい!」
「なんでも買ってやるよ」
「やった!」

早く早くと急かし、急かされながら玄関へ向かう。
ゾロは、上機嫌で鼻歌まで飛び出したルフィの耳に小さく囁いてやった。


「生まれてきてくれて有難う」


そして、出会えた事に最大の感謝を。

ルフィは、この日1番の笑顔で頷いた。



去年のゾロ誕文の続編でのお祝いです…ややこしくてすみません;
こんなものでもよろしければ、お持ち帰りくださいませ。

2008.05.05up


 *今年はなかなか大変なところでいらしたのに、
  それでも頑張られてのかわいらしいお話を、
  UPなされてくださいましたvv
  ちゃっかりと貰ってきちゃいましたようvv
  kinakoさま、どうもありがとうございますですvv
 

kinako様のサイト『heart to heart』さんはこちら→**

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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